


ス ト ー リ ー
早逝した大作家が遺したのは、五冊の著作と丘の上の一軒家。
売れない高校生作家・進太朗は父の残してくれたその家で、りやなさんと出会った。
「きみをわたしにくれたなら、きみがいちばん欲しいものをそそいであげる」
そうして唇を奪われた瞬間ーー

素晴らしい小説のアイデアを閃くが――進太朗は執筆を拒否!
「書ーいーてーよー! 絶対おもしろいんだからぁーっ!」
と涙目で訴えるりやなさん。
彼女は自分が読みたい物語のために才能を授ける妖精だというのだが――
かくして、高校生作家が美しい妖精に誘惑されまくる
奇妙な同棲生活が始まった!
キ ャ ラ ク タ ー

進太朗
高校生作家としてデビューしたはいいものの、売れ行きは不振。ベストセラー作家であった父親の作風とは反対の道を目指している。

りやなさん
進太朗に自分好みの作品を書かせるためにアレやコレやの手段で誘惑してくるお姉さん妖精。

波見さん
進太朗の担当編集者。身寄りのない進太郎の姉代わりとして親身になってくれるお姉さん。

みずあめぽっと先生
大人気ラノベ作家で、進太朗の通う高校の先生。進太郎の先輩として、相談にのってくれる頼れる大人。

ルクスピカ
大人気イラストレーター。なぜか進太朗の売れない作品でも愛してくれている。
特 別 シ ョ ー ト ス ト ー リ ー
ある日、学校から家に帰ると、縁側に尻が落ちていた。
――オーケーオーケー。色々疑わしくなったので、まず自分の正気をチェックする。
ぼくは、新井進太朗。十七歳の高校二年生で、一応はデビュー済の、駆け出し作家。ペンネームは、明日木青葉(あしたぎあおば)。著作は現在三冊。売れ行きは総じて芳しからずや。
「……あー、うん。頭はハッキリしてる。悲しいくらい」
過去を直視したところで、次は現実と向き合いましょう。 縁側に、尻が、落ちている。
――正しくは、縁側で、庭を向いて横になった女性が、僕の私室兼仕事場である書斎に対し、やたらと尻の存在感を主張させた構図(ポーズ)になっている。
「……りやなさーん?」
名前を呼んだが、返事が無い。郊外にある屋敷は静かで、そのため音がよく通る。かつては原稿中のぼくをせっつくように苛んだツクツクボウシの鳴き声も無く、穏やかでどこか品のある、寝息が書斎を通り過ぎる。
「……熱心にしてたもんな。ここのところ」
ひょんなことから我が家に居着いた、本業求愛妖精(ラブミーフェアリー)で、今はついでに作家見習い(モノカキルーキー)な彼女は、家事に執筆に何度拒んでも懲りてくれない誘惑に、毎日毎日忙しくしている。たまに昼寝くらいはするか。
「ま、今日の家事当番は僕だし」
寝かしといてあげよう、と鞄を置き、制服から着替えようとしたところで。
「――へっしゅ」
ちいさなくしゃみが聞こえた。
もう残暑は去り、本格的な秋と言える時期だ。夕方は肌寒くなってきている。
このままでもつらかろう、とタオルケットを手に近づく。
――そこで。ぼくは、襲われた。
「うぅん……」
身をよじる。
尻が、際立つ。
「…………」
何だろう。どうして僕は、今、タオルケットをかける直前で止まってしまったのか。
目が、離せない。この布一枚をかけることで、失われてしまうものがある。
今日のりやなさんは、気分転換でもしようと思ったのか、いつものワンピース姿ではなく、上はシャツで、下はホットパンツを履いていた。
その面積が、際どい。生地の厚みも、またやばい。
ふと脳裏に、尊敬する先輩大作家のM先生との会話がよみがえった。
『おれは、実に悩ましい。こう、わずかに尻肉がはみ出しているのは、アッエッ!? いいの!? って感覚なんだ。だが、もうほぼTバックじゃん……ってくらいになっているのも……がっつり家系ニンニクマシマシ味濃い目ライス無料味玉付き、そんな満腹感があるんだな……新井どう? ホットパンツの黄金比(エルドラド)って、どこにあると思う?』
『流石の求道です。答えがなかろうと、考え続けることに意味があるんですね――』
Mぽっと先生。あの時の答えは、今、ここにあるのかもしれません。
目を奪われている。心惹かれている。輝くような浪漫に。 僕の手は、ふらふらと……太陽に近付くイカロスが如く引き寄せられて……。
「……っ!」
危機一髪、ギリギリ触れない位置で止まった。
普段から『隙あらば来て』どころか『毎日、新鮮な隙、作っとくから!』の姿勢で誘い受けを仕掛けてくるりやなさん相手といえど、寝込みをこんなふうにやるのは……い、いやいや!
そもそも、誘惑に負けること自体いけないんであって!
「駄目だ、新井進太朗……いや、明日木青葉……! 一流作家を目指すなら、自分の過ちは、読者への裏切りにもなると叩きこめ……! はみ姉ちゃんも号泣だぞ……!」
「……ちっ」
……僕が、己の悪しき欲求と戦っている最中であった。
舌打ちが聞こえたと思うと、寝ているはずのりやなさんがおもむろに起き上がった。
「いい線いったんだけどなー。やっぱりシンタローは手ごわい」
ふと。またしても脳裏に、先日の記憶が思い出される。
『思うのよねー。ここまでやっても駄目なシンタローを篭絡するにはー、別のアプローチが必要なんじゃないかって! 具体的には、新たなる性癖の開拓、こじ開けが!』
『くだらないこと言ってないで、ごはん食べなさい。冷めちゃうぞ』
「【乳が駄目なら尻で行け(ピーチトラップ)】、失敗かあ。次の作戦練らなくちゃ」
書斎を出る彼女のバツグンな尻……いや、背中を茫然と見届ける僕に、最後、りやなさんは振り返って、いたずらっぽく笑った。
「筋金入りのいくじなし。何回チャンス逃すつもり? ……でも、そーいうシンタロー、わたし、好きだよ。ふふ、肌寒いどころか、この熱、全然冷めないなー!」
黄金は人を惹くもの。そして同時に、夢幻として届かぬもの。彼女はいつも通りのワンピースに戻り、名残も惜しまず去っていく。
少しだけ涙が出た。これは人道から逸れずに済んだ喜びか、それとも、捨てるべき余計をまたしても捨てられず、この手に夢を掴みそびれた残念か。
わからない。今は、この夕日が眩しいせいにしよう。
書 籍 詳 細
望むことをなんでもやってくれるお姉さん妖精と、甘々騒がしい同棲生活!?
早逝した大作家が遺したのは、五冊の著作と丘の上の一軒家。売れない高校生作家・進太朗は父の残してくれたその家でりやなさんと出会った。「きみをわたしにくれたなら、きみがいちばん欲しいものをそそいであげる」そうして唇を奪われた瞬間、素晴らしい小説のアイデアを閃くが――進太朗は執筆を拒否! 「書ーいーてーよー! 絶対おもしろいんだからぁーっ!」と涙目で訴えるりやなさん。彼女は自分が読みたい物語のために才能を授ける妖精だというのだが――かくして、高校生作家が美しい妖精に誘惑されまくる奇妙な同棲生活が始まった!
- 発売日 :
- サイズ : 文庫判
- 定価 : 748円(本体680円+税)
- ISBN : 9784047367371